日本経済は駄目になったか

日本経済の現状

http://rionaoki.net/2010/03/3448

 非常に面白くて衝撃的な資料だが、税収や社会保障関係のデータが抜けている点で、決定的に問題がある。社会保障は「経済」じゃないと言われればそれまでだが、これらのデータと税収・社会保障はかなり密接に関係しているので、すくなとも最低限言及しておくべきである。

この資料だけだと、ほぼ全面的に「小泉政権構造改革を継続しなかったのが間違いだった」という結論になる。「構造改革」が目指したのは生産性の向上だと思うが、すくなくともグラフを見る限りでは、この部分については悲観するほど悪いとは言えないし、「構造改革」の時代に急激に上昇しているというわけでもなさそうである。

 どうして日本の労働分配率が高いのかと言えば、最も説得力のある説明は、公的なセーフティネットが弱く、子供の学費や住宅費などを自己負担せざるを得ないからである。労働者に生産性以上の給料を与えなければ、当然ながら生活は成り立たなくなる。「家のローンが」「子供の学費が」という話をされてしまえば、そういうシステムを散々享受してきた日本の経営者たちも賃下げを強く主張できないのは当然である。経済学系の人は労働分配率の話をする時に、意図的なのか馬鹿なだけなのか知らないが、社会保障の話を完全に抜かして議論をしている。

 そして法人税が高い最大の理由は、減税の代替となる財源の問題を先送りしてきたこと、この一言につきる。高齢化で財源がより必要になっているのに、消費税を上げず、しかも所得税を下げてきたのだから、当然政府としてはこれ以上の減税は困るという姿勢になる。しかも「財政危機」が官民挙げて呼号されるなかで、法人税を下げるというのはなかなか世論の支持を得られにくいため、政治家はこの問題をずっと先送りしてきた。

 日本には、生産性をいくらでも伸ばせるはずの大企業のエリート社員が、相対的に安定した地位と所得を享受し、どんなに競争しても大して生産性が伸びはしない低所得の単純労働者が不安定で競争も激しいという矛盾した構造がある。そして、公的なセーフティネットの弱さ後者の労働環境のあまりの劣悪さのために、前者の人たちがますます生活保守的な姿勢を強めている傾向にある。

 個人的には、日本が駄目になっているなどとは全く思っていない。労働者が明らかに怠けるようになったとか、自暴自棄の犯罪が多発しているとか、街路や店舗がゴミだらけになったとかいうのであれば、さすがに「ダメになった」と思うかもしれないが、勤勉さ、治安の良さ、衛生状態の高さは依然として世界的にみても高いことは明らかだと思う。それに、いろいろな専門家の話を聞く限りでは、マクロ経済を少しいじくって、税制を改革して公的な分配を高め、厚生労働関係を中心に公務員を増やし、セーフティネットを整備した上で規制緩和を推し進めれば、たちどころに「復活」する気がするのだが、どうなのだろうか*1
 

*1:逆に最悪なのは、公的なセーフティネットが脆弱なままで規制緩和を推し進めることで、公務員や大企業正社員層がますます必死に「既得権」を守るために保守化し、公共サービスの質や労働生産性が低下していくという道筋である。