社会保障を考える

「平成24年版厚生労働白書 −社会保障を考える」に対して、「教科書的」という好意的な評価がある一方で、「経済学の知見がない」という批判が散見された。あまり正当な批判ではないと思う一方で(経済学の教科書に「社会保障論の知見がない」と批判するよう…

お詫びと言い訳

禁欲すると宣言しておくながら全然出来なかったことをお詫びします。いろいろと誤解を招く言い方が多かったようなので、ほとんど繰り返しなのですが、批判的なコメントをいただいた(ごくごく少数の)人に対して、言い訳というか私の意図をもう一度最後にま…

当たり前の政治が欲しい

現在、「増税」をめぐって政界再編が起きようとしている。民主主義の政治において重要なのは適切な争点の設定であるが、まさに「増税」ほど不適切な争点はなく、日本の政局の混乱および政治(という以上に民主主義への)不信、政策の停滞の元凶であると断言…

再び反緊縮派の立場から

「社会保障と税の一体改革」関連法案が衆議院を通過したが、「増税」をめぐって政局が大混乱に陥っている国は、おそらく日本だけではないだろうか。ギリシアでもフランスでもアメリカでも、争点になっているのは「緊縮」の是非であって増税ではなく、むしろ…

「施し」から「環境」へ

ここのところブログやツイッターが生活保護の話題に完全に占拠されている状態だが、やはり気になったのは、再分配の「公平性」をめぐる感情の問題がほとんど語られていないことである。実名を上げて「不正受給」を告発した片山さつき氏のやり方は、率直に言…

反緊縮派の立場から

「増税」を政治の争点にすべきではない、というのは1年以上前から繰り返し何度も書いてきたが、残念ながら野田政権の成立以降、「増税」めぐる政局や政策論争はますます強化されている。 「増税派」には、増税によって財政健全化の道筋がつけば国債の信任も…

現代日本の「テレビ政治」

日本の政治動向を観察するにはどこを中心に見ればよいのか、と問われれば私は国会ではないことはもちろん官僚組織ですらなく、少し迷いつつも「テレビ」と答える。誤解を恐れずに言えば、この10数年を振り返ると、テレビの政治報道番組や討論番組などで主流…

「身を切る姿勢」は泥沼の道

ここのところ、野田首相を筆頭に「増税の前に身を切る姿勢を」という主張が盛んであり、実際に議員定数や公務員の人件費などの削減が実行に移されようとしている。ここでも繰り返し述べてきたが、これは全面的に間違ったものである。議員定数や公務員の人員…

「絆」の戦後史

漢検の今年の漢字として「絆」が選ばれた事に関して、どこかの新聞で、いま人と人との結びつきとして理解されている「絆」は昔は否定的な意味であったという記事を読んで、「へえ、そうなんだ」と思い、ではいつ頃から肯定的な意味に変わってここまで普及す…

「ポピュリズム」とは何を指すのか

先週「大阪W選挙」で圧勝した橋下前大阪府知事の政治手法は、「ポピュリズム」と称されることが多い。「ポピュリズム」は政治学者による研究の蓄積はあるようだが*1、政治学の教科書や事典でも物によっては項目がなく、一般には「有権者をバカにした人気取…

公平性を確保する三つの方法

今の日本で税負担の公平性をどう実現するか正直分からないと前回書いたが、いくつか考えられる方法について簡単に触れておきたい*1。 (1)税負担が完全に社会保障給付と対応していることを明示する これは全くの正論だが、既に「税と社会保障の一体改革」で…

税負担の公平性について

税に関する議論を眺めていていつも思うのは、どの論者も税の問題にとって根幹であるはずの負担と分配の「公平性」の問題に、あまりに無関心・無頓着であることである*1。というより、論者がそれぞれ自明としている「公平性」に無自覚に寄りかかっているため…

地雷を踏むような状態

日本の政治的な選択肢は完全に行き詰っているように見える。どんな政策をとろうとしても、政治家にとって地雷を踏むような状態にある。 たとえば、年々膨れ上がる社会保障費のために税負担を要求すると、「デフレ不況下の増税はとんでもない」と言われ、では…

泥臭い政治

ここのところ、民主党政権の混迷に関して思うところを書いてきたが、きちんと考えてなかった重要な問題として、1990年代末以降に激増した年金生活者や非正規雇用者に対して*1、民主党をはじめとする各政党が支持獲得の仕方を間違えてきたことを指摘する必要…

日本の首相が頻繁に交替する理由

<中国人が見た日本>なぜ日本は首相がコロコロ代わっても安定が保たれているのか?http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=53920 菅直人首相が26日、正式に退陣を表明、新しい首相が30日に誕生する。この10年、日本の首相が走馬灯のように頻繁に代…

「子どもは社会が育てる」べきか

最近、一部で「子どもは社会が育てる」べきかどうかということが、話題になっている*1。民主党は、子ども手当て政策に対する「バラマキ」批判に応答する際に、「子どもは社会で育てる」という理念をよく持ち出していたが、これに対して自民党は、7月に発表し…

民主党政権が混迷している原因

「ポスト菅」が誰になるのかという以前に、政局のニュースはもう聴きたくもないという人は少なくないと思う。とりわけ、「被災地の復興」の健気な姿の報道とのコントラストで、政治の混迷ぶりが余計に際立つ結果になっている。日本はどうしてこんなにも政治…

何でも構わない

>id:dongfang99 争点化はどっちもどっちだと思います。緊縮財政については、そのことで効率性up→成長というパスが期待されたからだと思います。「増税で経済成長」は受容されないという事かと。 http://b.hatena.ne.jp/econ_econome/20110620#bookmark-47623…

研究者はつねに素人からの横槍にさらされるべき

個人的には、ひそかにネット上で最も勉強させていただいている方の一人のツイートであるが、非常に共感したので備忘録としてここに貼っておきたい。ちなみに抄録である。 分野によるが事実認識では素人や当事者が専門家より正確なことも多い。専門家の知識の…

「リーダーシップがない」にうんざり

毎日聞かされる「リーダーシップがない」という批判に心底うんざりしている。本当によくわからないのだが、「リーダーシップがない」「だらしがない」という不満を持つ人は、「俺だったらすぐできる!」という自信があるからそう批判できるのだろうか。自分…

確かに一瞬納得してしまいそうな理屈

バカ教員の思想良心の自由よりも、子どもたちへの祝福が重要だろ!だいたい、公立学校の教員は、日本国の公務員。税金で飯を食べさせてもらっている。国旗、国歌が嫌なら、日本の公務員を辞めろって言うんだ。君が代を起立して歌わない自由はある。それは公…

被災地支援の制度をもっと宣伝すべき

渦中のボランティア休暇はダメ 橋下知事「有給なら民間より厚遇」 2011.5.10 12:45 大阪府が昨年4月に廃止したものの、東日本大震災を受け、庁内で制度復活を求める声が上がっていた府職員のボランティア特別休暇について、橋下徹知事は10日、「行政側で…

働ける被災者に仕事を

atプラス 08作者: 磯崎新,大澤真幸,山崎義人,山折哲雄,上野千鶴子,内田祥士,大塚英志,稲葉振一郎,菊地謙,鈴木一誌,市野川容孝,永松伸吾,牧紀男,田畑知之,大平正巳出版社/メーカー: 太田出版発売日: 2011/05/10メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 2人 ク…

確率論に迷い込む前に

@HeizoTakenaka 竹中平蔵 30年で大地震の確率は87%・・浜岡停止の最大の理由だ。確率計算のプロセスは不明だが、あえて単純計算すると、この1年で起こる確率は2.9%、この一カ月の確率は0.2%だ。原発停止の様々な社会経済的コストを試算するために…

全く信用できない

Q:なぜ、合理的に説明できない原子力発電が推進されてきたのか? 日本の原子力は全体が利権になっている。電力会社はとにかく地域独占を崩されたくない、送電と発電の一体化を維持したい。それを守ってくれる経済産業省の意向を汲む、天下りをどんどん受け…

再分配が伴わない増税は避けるべき

「復興財源」に関する議論が盛んだが、消費税増税でまかなうという方法には基本的に反対である。 税はあくまで、治安や教育・社会保障など、市場では効率的に資源が分配することが困難な、特に恒久的な財源を必要とする分野への再分配の手段である。市場と政…

一月あまり経って

依然として余震も多く、この一月あまりの間に起こったことをいまだに現実として消化できていない感じだが、前回の追記のようなものとして。 現場の専門家を、その専門的な知識以外の水準(「利権」とか「御用学者」とか)で批判することが*1、デマの拡散を強…

よらしむべき、知らしむべからず

原発事故などについて、「デマに騙されるな」という言い方が政府からツィッターに至るまであり、デマ言説をまとめて注意喚起に努めている人も大勢いる。それ自体はもちろん大事なことだけど、そもそもデマが広まる温床を拡大させるような言説についても、厳…

開き直る以外にどうしようもない

原発事故の報道を眺めていると、問題の解決よりも混乱を招くような批判がある。在野のジャーナリストはともかく、大手マスコミのほうにも目立っているのが残念である。 (1)「情報を隠している」という批判 「情報を隠している」というなら、隠しているとい…

まだ時期尚早

今回の震災で、公務員の役割やインフラ整備の重要性など、「大きな政府」に風が向くことを期待している人もいるようだ。自分は以前から、今の日本では目の前の経済成長が若干減速してでも国民全体の負担を減らすために「大きな政府」を目指すべきだというく…