減税は低所得者の負担を増やす

河村市長、市民に「市議会解散請求を」 街頭で呼びかけ2010年3月27日18時42分
http://www.asahi.com/politics/update/0327/NGY201003270011.html

街頭演説で市議会の解散請求を呼びかける河村たかし市長=名古屋市中区の大須商店街
 市民税減税や市議の報酬削減をめぐって議会と対立している名古屋市河村たかし市長は27日、市議会の解散請求(リコール)を呼びかけるための街頭演説を行った。

 リコールのためには1カ月間で約36万5千人の署名が必要。その後、住民投票を実施して過半数の賛成があれば解散する。河村市長側は、署名を集めることができる「受任者」を5千人登録してから、署名活動を始める予定で、署名開始は5月の連休明け以降になる見通し。河村市長は自らの知名度を生かして、頻繁に街頭に出ることで、署名集めを優位に進めたい考えだ。

 この日、栄・三越前大須商店街で演説した河村市長は「議員報酬について、議会側から一切提言は無かった。市民に立ち上がってもらいたい」と呼びかけた。

 大須で演説に居合わせた同市内の会社員女性(26)は「議員の給料や市民税が減るのは自分のためになるのでぜひ署名したい。でも1カ月で36万も集めるのはちょっと厳しい気がする」と話した。

 税金が減るというのは、負担が減るということではなくて、政治的な決定によって分配できるお金が減るということである。要するに減税すると、医療、介護、教育、失業といった分野へ分配できるお金が減ってしまう、ということである。

 こうした分野は、低所得者・貧困者も相手にしなければいけないので、民間企業はあくまで部分的にしか扱えない。税金を減らして民間企業に任せると、低所得者が高い料金を払って医療や教育を購入しなければならなくなるか、そうでなければ料金が低い代わりにサービスや従業員の待遇も劣悪であるという方向になる*1。これは民間企業家が「金儲け」しか考えていないからでは決してなく、そもそも市場という制度は「負担を分配する」ようにはできていないのである*2。市場はあくまで「富を増やす」ために積極的に用いるべきであって、負担の分配は税(および社会保険)を通じて行うべきである。

 だから、「庶民の生活を考えている」顔をして減税に邁進する河村のような政治家は最悪の極みである。「福祉や教育を政府が提供するなんて自由な社会ではない」とはっきりいってくれればよいのだが、表面的には「福祉重視」「庶民の生活第一」の顔をするのだから反吐がでる。

 経済学者は「世論は経済がわかっていない」と嘆くが、実のところ税金についての誤解はそれ以上にひどい。これは経済学者も同じで、マクロ経済の話では説得的なのに、税や社会保障の話に踏み込むと途端に、それまで専門家が長い間かけて積み上げけてきた議論を無視したトンチンカンな議論を展開してしまうことが多い。税や社会保障については、経済学者は黙っててほしいのだが・・・。

*1:貧困ビジネス」と呼ばれるものがまさにそれである。

*2:だから「民営化」の最大の被害者は、実のところ「介護は成長産業」などという甘言にだまされた企業家たちであるとも言える。