増税で景気が良くなる?

菅大臣“増税 使途で景気よくなる”
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2010041200836

4月12日 17時28分

 
 菅副総理兼財務大臣は日本外国特派員協会で講演し、「増税しても使い道をまちがえなければ景気はよくなる」と述べ、消費税などを念頭に、増税が経済にプラスに働く側面を訴えていく考えを示しました。

 この中で菅大臣は「物価の下落が続くデフレは、日本経済にとって、たいへんなマイナスであり、政府・日銀は決して今のままデフレを容認するつもりはない」と述べました。そのうえで菅大臣は「デフレの解決にはお金の循環が必要で、国民に税による分担のお願いも必要だ。増税しても使い道をまちがえなければ景気はよくなるということを検証させており、必要な増税をすれば日本経済がよくなるという認識を国民に共有してもらいたい」と述べ、消費税などを念頭に、増税が経済にプラスに働く側面を訴えていく考えを示しました。さらに菅大臣は「日本の政治家は増税すると選挙に負けるというトラウマがあるが、選挙の争点としてではなく、与野党がそれを超えての議論をできるかが問われている」と与野党が選挙の思わくを超えて増税の必要性について議論する必要があると強調しました。

 民主党が言うなというのは感情としてはわかるが、これ自体は全くの正論である。増税すると景気が悪くなると、思い込んでいる人が多いのだが、大きな間違いである。何でこんな基本的なところで、みんな間違えているのだろうか。

 消費税が20パーセントになっても、その財源で医療・介護・育児・教育・雇用などの分野のセーフティネットが充実し、「少々のことがあっても最低限の生活は心配ない」という社会をつくることができるのであれば、むしろ消費の活性化を期待することができる。消費税はあくまで「徴収の効率性・安定性が高い」という以上の意味はない(からこそ先進国で採用されている)のだが、なぜだか「逆進的」「消費が冷え込む」などという、木を見て森を見ずという類の、見当はずれの批判を繰り出す人が少なからずいる。数字の計算は得意だが、税や再分配の意義について全く考えたことのない人たちにありがちな批判である。

 いま日本で起こっていることは、若い世代の雇用と労働環境が量・質ともに劣化し、親の高齢世代が年金と貯金を切り崩しながら細々と生活せざるを得なくなっているために、節約志向によるさらなるデフレ悪化を招いている点にある。「公務員の給料が高すぎる」というルサンチマンも、社会全体の節約志向に由来するものである。この「デフレスパイラル」を止めるためには、マクロ経済政策はもちろんのこと、増税による再分配によって低所得者層の需要を喚起することが不可欠である。

 見ていると「経済に詳しい」はずの人たちまでが、この基本的なところを全く理解していない傾向がある。否定すべきなのは、「増税しないと国の財政が持たない」という「財政危機ナショナリズム」であって、増税そのものではない*1


トラックバックをいただいたので・・・・

うーむ、間違いではないのだけど、なんとなく筋の悪さを感じるのであるよ。。。なんというか、小賢しい少年漫画で、相手の先の先の先を読んで今出すカードはこれだーなんてやってるような感覚を持ってしまう。いや、間違いじゃないだろうけど、今やることは日銀の横面をひっぱたいて物価目標をきちんと決めさせることでしょうに…。コアCPI0%が物価安定ですなんて言わせてたら間違いなく実質マイナスで引き締めに入るよ、連中は。
http://d.hatena.ne.jp/WATERMAN/20100413/1271167929


自分は経済はど素人なんで、「コアCPI」と言われても目が点で申し訳ないのですけども・・・。

お金を市場で回すのか政府で回すのか。市場で回すほうも今いち徹底していない感じですが、政府で回すほうはそれ以上に足りなくて、それが市場経済そのものを傷つけている、というのが私の素人なりの現状認識です。たとえば政府がやるべき領域に民間が参入せざるを得なくなり、「貧困ビジネス」となり、「やっぱり市場は暴力的だ」と感じる人も増えてしまうという、そういう悪循環にあるような気がします。

「筋が悪い」「今やることは」と言われれば、無知なんで反論するあれもないのですが・・・。私としてはとにかく、介護や貧困などの分野の現場で起こっている悲惨な光景が、「財源がない」(それ自体は反論できない)の一言で、何も前に進まない状態が見ていられないのです。その状況を少しでも前に進める人たちであれば、菅直人だろうが、竹中平蔵だろうが、亀井静香だろうが、とりあえず構わないというか・・・。とりあえず「リフレ」に賛成しているのも、前進しそうな政策だからというのがあります。政治はしょせん「悪さ加減」の選択なので。


(追記)
 「増税すると景気が良くなったことは人類史上一度もない」などと言う人が多いのだけど、そういうことを実証した研究をちゃんと示してほしい。いやこれは実証以前に、素人の頭で考えてもおかしい。分配のことを無視した増税が景気を悪化させるのは当たり前で、要するに「景気が悪くなる」と言っている人は分配の問題にまったく関心がないわけだ(そのつもりはないだろうが、感じたことは正直ない)。

 政府の裁量に任せるのは信用できないといっている人も相変わらずいて、まったく頭が痛くなるのだが、だからそれを解決するのが「民主主義」で、政府に渡す金自体を減らせば、医療・介護・貧困・教育・失業などに分配できる金も減ってしまう。それが良いと思っているのだろうか。だから、医療や介護の現場の厳しさの解決に取り組んでいる社会保障の専門家のほとんどが、社会保障制度をしっかりさせることができれば、税金が少々上がっても社会全体の負担は大きく減ると考えている。

 自分も専門家じゃないけど、これくらいの基本的なことは理解できる。理解しようとしていない人が、なんでこんなに多いのかがよくわからない。


(さらに追記)
 あまりブログなんてやらない、社会保障や失業問題に関心のある人たちは概ね感じていること(まあ別にどうでも良いので無視していること)だと思うけど、なんか経済学系の人ってやはりどこかおかしいと思う。カール・ポランニー以来の、非主流の社会経済学者による経済学批判は、それ自体はあまり説得的とは言えないけど、その基本的な違和感はすごくよくわかる。ブログ論壇でも、その違和感をおずおずと表明してきた人が何人も叩きつぶされてきたが、そういう違和感をまきちらしていることを、もうちょっと反省してもいいんじゃないか。

 「増税の前にインフレターゲット」を主張している人たちは(私は両方ともやるべきだと思っているが)、医療・介護・教育の現場で起こっている悲惨な現状を、「経済成長」が実現するまで放置すべきだと(事実上)言っているんだろうか。もちろん言ってはいないだろうけど、そう読めてしまう。こういう分野の財源の調達は、基本的に税によるしかないのだが、どうしてそれを主張するだけで「経済を知らないバカ」扱いされなければいけないのか(実際知らないのですが・・・)、さっぱりわからない。

 そしてもっとも良くわからないのは、「経済を知っている」かどうかが政治家の評価基準になっていて、どういう社会がいいのかということに、本当に全く関心がないこと。たぶん高橋是清が現代に現れれば万歳三唱なんだろうが・・・。そういう思考様式こそが「官僚主義」であることが、どうして反省できんのかなあ。

そして一番良くわからないのが、日銀総裁批判。もちろん批判はいいんだけど、「インフレ目標」に賛成しない人は専門家でもいくらでもいるわけで(むしろ榊原氏とか野口ユキオ氏とか、世間的には「大物」といわれている人ほど多いんじゃないかな)、どうして「意味がわからん」→「陰謀があるに違いない!!」という風に頭が転回してしまうのかが、さっぱり理解できない。他の経済の話ではクールで説得的なだけに、いきなり大学生のレポートでもアウトの、二流週刊誌レベルの陰謀論に反転するので、この政治に対するナイーヴさには本当にびっくりしてしまう。

*1:過去の消費税増税の間違いはまさに財政再建目的だったことにある。