ダメな増税論

 増税の話をすると、本当に「バカの壁」というものを感じる。素人はもちろんだけど、「経済に詳しい人」にも「経済を知らないバカがなんか言っているよ」みたいな感じでぶったぎられてしまう*1

 しかし、それは現実に「増税」を口にしている人にも、かなりの責任がある。今の日本で流通しているのが、あまりに「ダメな増税論」であることは否定しようがない。「ダメな増税論」は以下の二つにまとめることができる。


1)「財政状況が厳しいから」を理由とした増税
 増税というのは、市場がカバーできない低所得者・貧困者向けのセーフティネットを構築し、社会全体のリスク感を下げるために行うべきであって、それ以上のものであってはならない。「財政状況が厳しいから」増税というのは、「ほしがりません勝つまでは」式の、厳しい状況で贅沢言わずみんな耐えて我慢すべきだというものでしかない。「ほしがりません勝つまでは」式に増税できたとしても、議員や官僚とちょっとした「無駄遣い」や給与水準の高さに、目を吊り上げて批判するという光景がますます強まり、社会全体の閉塞感は強まるだけだろう。


2)高齢化社会対応目的の増税
 要するに、増え続ける医療、介護、年金の財源をカバーすることを目的にした増税論である。しかし、今日本で圧倒的に不足しているのは、こうした高齢者層向けの支出ではなく、家族、雇用、住宅、教育など、若年層向けの社会支出である。そして、現役世代が不安定な労働環境に晒されていることと、高齢者向けの福祉の財源が不足していることとは密接に関連した問題であって、切り離して論じるべきではない。年金の問題ついても、年金制度自体というよりも、若年層や中小企業が年金を安定的に支払えなくなっている、という問題が根底にある。それに前にも書いたように、高齢世代の生活不安というのは、少なからず子どもの世代の不安定な働き方を原因としているものである。


 「ダメな増税論」をまとめると、「高齢化社会が進む日本でいまの消費税率では財政が破綻するので国民はどうか理解して負担に応じてほしい。あくまで福祉目的で無駄なことには使わないので」というものである。これに対して、まず若年者向けのセーフティネットを分厚くすることで、高齢世代の福祉の問題の解決を容易にしていく、それこそが持続可能性の高い社会保障を可能にする、というのが私の基本的な考え方である。ただこうした動機に基づく増税論はほぼ皆無で、「ダメな増税論」ばかりが横行している。

日銀総裁がNYで講演、消費税引き上げに言及
4月23日18時3分配信 読売新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100423-00001129-yom-bus_all


 【ニューヨーク=小谷野太郎】日本銀行白川方明総裁は22日、ニューヨーク市内で講演し、消費税について「欧州諸国の平均税率20%に対し日本は5%で、十分引き上げの余地がある」と述べ、財政健全化に向け、消費税率の引き上げが有力な選択肢の一つとの認識を示した。

 鳩山首相は任期中の消費税率引き上げを否定しており、消費税を巡る日銀と政府の意見の食い違いが、今後、論議を呼びそうだ。

 白川総裁は、2008年秋以降の金融危機について、「影響が一巡したとは言えない」と述べ、先行きに慎重な見方を示した。

 さらに、今回の危機では「良好な経済状況が過剰な自信をもたらし、民間のリスク管理も、中央銀行や政策当局の監督・規制もうまく作動しなかった」と分析。その上で、「個々のリスク特性に応じた監督」が有効との見解を示し、中央銀行や監督当局には「適度な裁量が必要」と強調した。

「国民安心税」の創設 自民公約盛り込みへ
4月21日7時56分配信 産経新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100421-00000050-san-pol


 自民党は20日、夏の参院選の公約に、社会福祉目的に特化した「国民安心税」(仮称)の創設を盛り込む方針を固めた。現行の消費税から、今後税率を引き上げた部分を国民安心税にすることで調整している。

 また、就職先が決まらなかった高校・大学の新卒者を2年程度雇った企業に年間100万円を助成する「トライアル雇用制度」の導入も盛り込む方向だ。

*1:まあ、実際知らないので、面と向かっては反論できないのだが・・・。