今の増税論には怖いものを感じる

 「太田総理」に勝間和代氏が出ていて、「十年間は消費税を上げない」という「暴論」を提起していた。この人は、別の場所では「法人税率を国際平均の30%程度まで下げる一方、消費税率を10〜15%まで引き上げる」べきだと主張しているので*1、相変わらずとんでもない人だなとは思った。もちろん、戦略的に立ち振る舞っているだけなのかもしれないが、いずれにしてもこの人の言っていることを真に受け取ることはできないことは確かである。

 ただ最近、世論が消費税増税を容認する空気に傾いているのは、正直怖いものを感じている。というのは、今の増税論支持が「財政が厳しいのだからみんな我慢すべきだ」という以上のものではないからである。税とは国民の生活を少しでも楽にするための資源分配の手段の一つであるはずなのに、「増税に応じないような『わがまま』はもはや許されない」という、人々に苦痛や忍耐を強いるような雰囲気の中で増税が支持されるようになっている。

 そうした世論が導く当然の結果として、社会保障は今よりも充実することなく、とくに若年層・現役世代の社会保障が著しく脆弱な構造が変わることなく、税負担だけが増えることになる。実際、増税論議で焦点となっているのは、医療・介護・年金の財源問題であって、教育・雇用・住宅などの問題はまるで出てこない。分配が増えない以上、当然景気は悪化するだろうし、若年層・現役世代だけの負担が一方的に増えて、世代間対立も激化してしまうことは避けられない。そしてもし、民主党政権が崩壊するような事態になり、「バラマキ」批判の財政再建論者が主導権を握るようなことになれば、この悪夢が現実化してしまうだろう。

 しかし、税による再分配で国民が生活の安心と安定を獲得でき、市場への信頼を再構築して経済成長を下支えすることにもなるという、標準的な「福祉国家」の論理が日本の国民に受け入れられる可能性もほとんどないように思われる。それは菅直人の「増税によって需要を喚起できる」という発言に対する、世論の一方的に否定的な反応を見ても明らかである。おそらく勝間氏もそれがよくわかっているので、素人相手には「福祉国家」的な主張を矛に収めているのだろう。

 しかし、自分はとてもそんな器用な立ち振る舞いはできないということもあるのだが、やはり根本的なところで間違っているのではないだろうか。馬鹿と思われても愚直に正論を言い続けるべきではないかと思うのだが、どうなんろうか。やはり自分が甘いのだろうか。