日本人の良心

 各政党の主張を見ると、共産党以外のほぼ全政党が公務員削減を公約に掲げており、日本が先進国の中で極端に公務員の少ない国家になることはほぼ確実である。かといって、民間企業やNPO・ボランティアの福祉活動が、それに応じて活発化しているとは言えないし、そういう主張が社会的に高まっているわけでもない。既に本格的な高齢化社会が始まっており、政府やNPOの役割が高まりこそすれ減ることなどありえないことを考えると、非常に奇妙なこととしか言いようがない。

 この背景には、人に迷惑はかけるのはみっともない、自分で、家族でなんとか頑張るので大丈夫という、平均的な日本人の「良心」とでも言うべきものがあるように思う。介護をめぐる自殺・心中の事件が起こると、親戚や近所の住民が「そこまでとは知らなかった」「ひとこと言ってくれれば」と無念そうに語るという報道をしばしば目にする。しかし、「介護で大変で死にそう、助けてほしい」とはっきり言うことは、おそらく日本社会ではきわめて「失礼」なことであり、「あの人とかかわると面倒が多い」と、その人の立場を非常に悪くするものなのである。まさに「おしん」のように、愚痴も文句も言わず我慢に我慢を重ねた上で、周りがそれを見かねて手助けをするというシチュエーションでなければいけないわけである。

 親族や地域のつながりが密な時代であれば、実際に見かねて手助けするお節介なおじさん・おばさんがいたのだろうが、今は本当に何の手助けもなく殺人や自殺に至ってしまうという例が跡を絶たない。普通の日本人は、そういう悲惨な事件に接すれば素直に涙するであろうが、かといって税やボランティア・寄付を通じて、社会全体でそれを支えようという意識へと向かうかというと、必ずしもそうはならず、やはり「人様に迷惑はかけられない」となってしまう。そういう、人々の中にある良心が社会保障の充実を妨げているとしたら、こんなに悲しいことはない。

介護・看病疲れによる自殺、過去最多、6割が60歳以上――警察庁
http://www.caremanagement.jp/news+article.storyid+7353.htm

警察庁は、5月13日、「2009年中における自殺の概要」を発表した。それによると、同年中の自殺者の総数は前年比1.8%増の3万2,845人。このうち、「介護・看病疲れ」が原因の自殺者は同4.4%増の285人で、2006年から統計を取り始めて以来最高を記録した。

自殺の原因は、「健康問題」が約48%で最も多く、「経済・生活問題」約26%、「家庭問題」約13%と続く。「家庭問題」の原因は、「夫婦関係の不和」「家族の将来悲観」「親子関係の不和」などが多くを占め、「介護・看病疲れ」による自殺者は約7%だった。

「介護・看病疲れ」の自殺者のうち約7割が無職者で、全自殺者に占める無職者の割合に比べると約13ポイント高いことがわかった。内訳は、年金や雇用保険生活者が約44%、主婦が約16%、失業者が5%、その他の無職者が約35%だった。

男女別に見ると、男性は約62%で、全自殺者と比べて約10ポイント低かった。年齢別では、60代が約32%と最も多く、50代約20%、70代約19%、40代約15%、80代約10%、30代約4%となっていて、60歳以上が全体の6割を占めていた。