消費税反対論批判

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)

 この本を立ち読みしていて頷きながら読んでいたのだが、途中で消費税反対論が書いてあって、ああなるほど、やっぱりこの手のエコノミスト社会保障の問題にあまり関心がないんだなあ、とつくづく思った*1

 消費税では財政再建できないと述べられていて、それはその通りだとしても、そのことが消費税否定論になってしまうのだから話にならない。増税が必要なのは、医療・介護、教育、障害者福祉、雇用保障など、市場が対応できない人間の生存にとって基礎的な分野に分配するためであって、誤解を恐れずに言えば、これはデフレ不況の下でも(私に言わせればむしろデフレだからこそ)断行すべきものである。タイミングを間違えずにやる、という重大な問題はあるけれど。

 日本でこの10年来経験してきたことは、政府が馬鹿のひとつ覚えのように「財源がない」ことを言い訳にして分配を抑制・削減し、さらに富裕層を減税することが「経済成長」につながると称して、財政赤字がかえって拡大してしまったことである。その財政赤字を埋めるために消費税増税をと言っている人は(なぜか専門家でもこのトンデモ説を振り回す人がいるが)確かに最悪である。しかし、だからといって消費税増税そのものがナンセンスだという方向に議論を誘導すれば、「財源がない」ことを言い訳にした分配の抑制政策がいつまでも続くことを許してしまう。

 今の日本の最大の問題は、消費税論議が主に財界周辺から、つまり社会保障よりも「財政再建」に関心をもち、法人税所得税の引き下げを目論んでいる人々の間で繰り広げられていることだろう*2。これに反対するのは当然だとしても、それがそのまま消費税否定論に(とくに良心的な人ほど)傾いてしまうところに、日本の政治状況の構造的な問題を感じる。

*1:とくに逆進性にケチをつける人は、集めた税をどう分配するのかという話にまるで関心を持っていない証拠である。年金や健康保険の負担を累進的にすべきだ(個人的にはそう考えるが)という話をしているわけでもない。

*2:麻生政権内の一部で社会保障をセットにした増税論が展開されたていたが、今思えばこれが日本国内で唯一まともな議論であった。