生活保守主義的な「改革」

橋下知事2年、本紙意識調査 年長者に圧倒的支持 公務員には不人気

http://sankei.jp.msn.com/politics/local/100202/lcl1002020830002-n1.htm


  高支持率を維持し続ける大阪府橋下徹知事。今回の支持率(83・2%)は、就任直後の66%(平成20年3月)からみると、2年間で17・2ポイント上昇している。あらゆる階層から幅広い支持を集めているが、男性より女性、より年長者から強い支持を得ているのが特徴。職業別では、公務員の支持率が25%にとどまった一方、会社役員からは高い支持を得た。また、大阪(伊丹)空港廃止については全体では半数近くが廃止に賛成だったが、空港の地元地域では反対意見が根強いといった傾向が出た。


 今回の意識調査を男女別でみると、男性の支持率が82・4%に対し、女性は84・0%と女性の支持が上回った。年代が上がるにつれて支持率が高くなる傾向で、20代は76・0%、30代は83・0%と上昇。60代以上になると、90・0%という支持率を記録した。


 職業別にみると、会社役員は94・8%、主婦(主夫含む)は90・4%から圧倒的な支持を受ける半面、公務員の支持率は25%と低迷。不支持率も62・6%にのぼり、自治体改革に切り込む知事の姿勢に公務員が反発している様子もうかがえた。


 かつては、将来不安に悩まされる若い世代が、小泉政権から橋下府政に至るまでの規制緩和・緊縮財政的な「改革」を支持しているのだろうと漠然と考えていた。また、そのように解説する議論も多かった。

 今は違う仮説を考えている。むしろ、年金があれば老後に生活に困らない程度の貯金や資産を持っているような、生活保守的な関心が強いはずの高齢者層が「改革」支持の中心にいるということである。

 どうして高齢者層が「改革」を支持するかといえば、おそらく以下の二つの理由があると考えられる。

 第一に、この層は既に現役労働者ではないので、「改革」の現実的なひずみを肌で感じる機会がほとんどなくなっている。現場で働いている人は、「改革」がいいことばかりではないことを肌で実感せざるを得ない。特に、橋下が大幅に切り刻んだ教育や医療・介護関係の人にとっては、おそらくそうだろう。しかし、現場からリタイヤしている高齢者層は、テレビを通じて映し出される「頑張っている姿」そのものを高く評価してしまう。労働市場に参入していない主婦の橋下知事へ支持率が高いというのも、おそらく似たような理由であると理解できる。

 第二に、逆説的ではあるが、高齢者層の生活が全面的に行政に依存していることが、行政規模を縮小するような「改革」を支持させていることである。彼らの老後の生活はもはや年金そして医療保険といった行政の制度が頼りであるが、ニュースを見れば「財政危機」や「年金破綻」「医療崩壊」の文字が躍るようになっている。そのことは、このような危機的状況をもたらした官僚・公務員が、依然として安定した地位や身分を享受している(ように映る)ことに対する敵意を高め、結果として行政の人件費削減と「民営化」という路線に対して支持を与えていると考えられる。
 もちろん、本家の「構造改革」派は、本音では年金制度など経済の足かせにくらいにしか思っていない。そして高齢者層も、市場競争原理には全体として否定的な態度が強い。その高齢者層が奇妙にも「構造改革」的な政策に支持を与えているように見えるのは、自分たちの命綱である医療・年金制度を守るために官僚・公務員に「必死に仕事をさせる」ためであり、そして人件費削減などを医療・年金の財源確保の手段としてとらえているためである*1。そう考えると、世論のなかで「改革」と「停滞容認論」とが奇妙に共存しているように見える理由も理解できる。

 以上のように、高齢者層の生活保守主義的な関心の強さが、ラディカルな「改革」に対する熱烈な支持の背景にあると考えてみた(あくまで大雑把な仮説であるが)。生活保守主義は将来に対する不安の裏返しでもあるが、この不安を解消するような財政・経済政策を構築するのではなく、むしろ煽ることによって政治的に動員するような手法がますます強まっているように思われる。

*1:郵政民営化に賛成しておきながら、かんぽの宿の売却を否定したように、そもそも日本の世論は「民営化」が何のことやらさっぱり理解していない。民営化すると「競争原理が働いて一生懸命仕事をするようになる」くらいの理解しかないわけだ。民営化を「民主的な政治コントロールが及ばなくなり、企業家と投資家の独断に公共的な業務を全面的に委任する」と理解していれば、誰も賛成しなかったはずである。民営化してよいものとは、創意工夫によって付加価値をいくらでも増やせるものか、当該業務が究極的にはなくなってもかまわなものか、そして民営化しても有力な競争相手もなく(民業圧迫にならない)潰れる心配がないほど需要が安定しているもの(鉄道や電話・電力)などである。