「草食系」が増えている理由

 もともと「草食系」というのは、「天然のモテ男」という意味であった。とくに必要以上の努力をしなくても、育ちのよさから来る容姿と雰囲気で、女性が勝手に寄ってくるので自然とガツガツしなくなるという、そういう意味だった。それが最近は、「バイタリティに欠けた若者男性」一般を「草食系」と呼んでいる。

 私は「草食系」が増えているとしたら*1、「KY」つまり「空気が読めない」という問題と深く関係していると考えている。「空気が読めない」という言い方が流行している原因は様々だろうが、少なくとも「空気」が読めるかどうかが、人間の評価において決定的に重要になっていることを示していることは間違いない。

 だとすると、心から好きな女性に対しても、おいそれと告白することはできなくなる。それは、「単なる友達」という「空気」を破壊することになってしまうだけではなく、「空気が読めないやつ」という、負のレッテルを引き受けることになってしまうからである。だから「告白」という行為は、お互いが恋人関係の寸前にまで到達してるような「空気」が「自然に」存在して、はじめて承認されることになる。その段階以前に告白という行為に及ぶ人間は、単に「痛いやつ」としてしか見られない。結果として、モテ男だけではなく非モテ男も「草食系」になっていく。これと似たような現象が、恋愛だけではなく、様々な領域で起こっていると考えられる。

 かつても「空気」は日本人論のなかで問題にされてきたが、それは「読む」ことによってはじめて理解できる、というものではなかった。それは個人の自由を拘束する、日本人の前近代性を象徴する非合理な観念であって、基本的に否定的な価値観として語られてきた。ところが現在は、「空気」を察することのできない人間のほうが、否定的に評価されるようになっている。 

 若者が「草食系」化すること自体は、決して悪いことではないと思う*2。ただその背景にあるのが、長期のデフレ不況、過剰なリスクとセーフティネットの不在、そして「空気が読めない」ことにあるとしたら、やはり健全なものとは言えない。

*1:断っておくと、以下はあくまでそういう仮定に基づく話である。

*2:「国際競争力が低下する」などと言っている人もいるが、そうしたマクロな問題は、それこそあなた方政治家・専門家の責任だろうと言いたい。