年金に対する誤解について

「年金は破綻しない」は、理屈で正しく、現実で誤っている
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100225/213014/?P=3


飯田 先に年金は破綻しないという説について説明しちゃいましょう。現状の年金がなぜ破綻しないか、たしかに絶対に破綻しないんです。なぜならば、払い込んだ人に対して給付をするだけの金額を次の世代から徴収すればいいというシステムだから。

―― ?

荻上 要は、「破綻」をどのレベルで考えるか、ですよ。つまり、年金の理念はとっくに崩壊へと向かっている。だけど、年金の形式、すなわちシステム自体は、現状のまま維持しようと思えばできる。その分、どんどん若者がキツくなるけど、システムは保てる。

飯田 そうそう。高齢者への支払いが困難なら、現役世代からの徴収を増やせばいいわけですから。さらに言うと、これを続けていたら払わない人が増えていくでしょうね。だって払ったってその分は上の世代に回って、自分が受け取るときには間違いなく払う若い世代が減っている。どう考えても損なんですから。

 他の話はなるほどという感じで勉強させてもらったが、ここだけは全面的に反対である。この議論に限らず、経済学系の人が社会保障政策の話をすると、どうもピントが外れていると感じることが多い。

 第一に、「若い世代が損だから」という理屈で賦課方式が批判されているのだが、そもそも年金というのは経済状況や人口構造によって、必然的に世代間格差を発生させる制度である。年金の世代間格差が政治問題化すれば、世界中のどこでも年金制度は一日たりとも維持できなくなってしまうことは、少し考えれば理解できることである。それに、「払っておいたほうが結局のところ得だ」と主張している年金の専門家も少なくない。どちらが正しいかは専門家の議論に任せるしかないが、なぜだか「損だから払わなくなる」という議論ばかりが流通しているのは不可解であるし、また「損だ」という話が流通すれば年金の「破綻」にさらに拍車がかかってしまう。個人的に破綻否定論者に共感する部分は、そうした悪循環(いわゆる「予言の自己成就」)そもそのを懸命に食い止めようとしているところにある*1

 第二に、そもそも若い世代が国民年金を払わないのは、「損する」からではない。確かに当事者がそのように語ることはあるとしても、それと「原因」はまた別の話である。若い世代が国民年金を払わないとしたら、働き方が不安定で所得が少ないために、老後のことまで考える余裕がないからである。1年後の生活の見通しも立たない人が、30年後のために月1万以上も払うことは負担が重すぎる、あるいは馬鹿馬鹿しいと感じるのは当然である。それは第一義的には経済状況の不透明さと、若年者向けの社会保障(特に雇用保障)の決定的な不備の問題なのであって、損か得かというのはあくまで枝葉の話である。

 今の年金は駄目だと呼号している人には、年金が社会保障制度全体の一部でしかないということを、ついつい忘れている人が多い。当然ながら、年金制度が健全に機能するかどうかは、医療、介護、雇用、教育などなどの他の社会制度の健全さに依存している。たとえば教育機会の保障が不備であるために、高校を中退せざるを得ない若者が増え、そのまま何の手に職もつけないまま単純労働のフリーターとなり、厚生年金もまともに負担しない「ブラック企業」がそれに付け込むという、そういう社会構造のなかで年金制度は問題化している。年金制度そのものに手をつけるよりも(全くその必要がないとはもちろん言っていない)、年金をすすんで支払えるように他のセーフティネットを充実させるほうが根本的に重要である。

「積み立て方式」がいいと主張されるのだが、個人的にはその方式の何が良いのかが、理解できたことが一度もない。それこそ「理屈は正しくて、現実は誤っている」ような気がするのだが、どうなのだろうか。

*1:そもそも、破綻はありえないから今の年金に全く問題はない、とまで開き直っている人を個人的には知らないのだが。