消費税を選挙の争点にするな

消費税で菅首相「早くて2、3年かかる」
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp3-20100622-644300.html


 菅直人首相(63)は21日午後、官邸で記者会見し、財政再建のための消費税率引き上げ時期について「早くても2、3年、もう少しかかるのではないか」と表明した。低所得者の負担軽減のため、食料品など生活必需品を想定した複数税率の採用や税金還付の導入を検討する意向も強調。参院選後に本格的に議論を始めるとともに、増税前に衆院選で国民の信を問う考えを重ねて示した。

 引き上げまでに時間がかかる理由として、課税の正確性を高めるインボイス(仕送り状)制度や納税者番号制度といった大きな制度改正の必要性を指摘。「基本的には大きな税制改革をするときには、まとまった段階で国民に判断する機会を持ってもらうのは必要だ」と述べた。

 国民新党が消費税引き上げに反対している状況には「選挙での主張が異なることと政権離脱は若干、違いがある」として、直ちに連立解消にはつながらないとの認識を示した。


 消費税というのは、単なる政策実現の手段にしか過ぎない。この手段にすぎない問題が参議院選挙の争点になってしまう気配なのだが、これは本当に避けてほしいと思う。

 それよりも、医療・介護・育児・教育・雇用に関するセーフティネットをどれだけ張っていくか、という全体の理念とプランを提示すべきである。そして、そういう理念・プランに賛同するか否かが選挙の争点になるべきであって、消費税の細かな技術的問題が争点化するなど馬鹿げている。そんなことは、官僚や専門家に任せておけばいい。ところが日本という国は、首相が消費税にちらっと言及しただけで一面トップの扱いになるのだから、本当に頭が痛くなる。

 逆に言うと、理念や価値観の次元で反対する人、つまり政府のセーフティネットに国民が依存するような社会は反対だ、そんな甘ったるい社会は想像しただけでもうんざりする、とはっきりと言う人は嫌いではない。というか、こういう天邪鬼の人に対しては、心の奥底ではどこかで深く共感している*1

 逆に反吐が出るほど嫌いなのは、財務省陰謀論などを繰り出して、そのことで民主党の政策全体を否定するような議論である*2。政治家やジャーナリストは商売としか言いようない部分もあるが、専門家と思しきひとまで繰り出すことがあるので本当に驚かされる。

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 それにしても、「増税すると景気が悪化する」という初歩的な誤解が、どうしこうも垂れ流されているんだろうか。経済については鋭く説得的なことを言っている人も多いだけに、頭を抱えてしまう。税制の細かな仕組みは私なんかよりも詳しいのだろうが、税が何のためにあるのか、何の役に立つのかを全く考えていない気がする。その点では、「増税財政再建」論者の間違いと一つも変わらない。

 小野善康氏も、魅力的な部分はあるし、経済学的な根拠もあるのだろうが、明らかに税の役割を逸脱していると思う*3。「国民はリストラできない」というのは確かにいい表現だけども・・・。

*1:実際、北欧をやたらに持ち上げる福祉国家論者は、昔から今に至るまで全く好きになれない。日本の現実から出発しろと言いたい。

*2:財務省が緊縮財政を好むのは職業柄当然だろう。根本的な問題は国民世論が、「利権」や「既得権」に対するルサンチマンから、それを好んでいるということ、そして(たぶん亀井静香共産党以外の)大多数の政党・政治家がそうした世論にただ乗りしたり、扇動したりしていることである。

*3:いつのまにか「すぐにでも消費税を」という言い方になっているが、これには賛成できない。http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-15903920100621?pageNumber=3&virtualBrandChannel=13165
税はあくまで市場が対応することが適切ではない分野の資源配分の方法であって、雇用創出が目標なら赤字国債だって構わないだろう。それでインフレになればすぐに返せるんだから。