少し逆進的であるくらいのほうがいい

 税は担税力の高いところから真っ先に徴収すべきだという意見が強いのだが、自分は若干違う意見を持っている。それは、担税力を前提としつつも、日本社会で生活・活動している人が可能な限り等しく負担するような制度にすべきだ、ということである。

 税が単純に富の再分配の意義しかなく、政治的な正当性や社会統合の問題に全く関係ないというのなら、単純に担税力の高い人が負担しろということでもかまわない。しかし、税というのは「誰が負担し、誰が給付されるのか」という、センシティヴな問題と切り離すことができない。繰り返しになるが、ヨーロッパが所得税から消費税を中心にしていったのは、少子高齢化と経済グローバル化によって、現役中間層が「頑張って働いても年寄りや外国人に持っていかれる」と不満を持ちはじめ、それが「福祉国家の危機」に直結したことが背景にある。

 法人税所得税相続税を上げろという左派の主張は、悪くすると国の財政が大企業経営者や高額所得者に依存するという構造を強化し、「国の財政を支えているのは俺たちだ」という、彼らの歪んだプライドを醸成しかねない危険性を持っている。結果どうなるかというと、貧困者への直接的な所得分配よりも、大企業の体力を支えるような、産業政策が選好されるようになる。

 前にも言ったように、誤解を恐れずに言えば、税というのは少し逆進的であるくらいのほうがかえっていいのである。むしろ失業者・無業者であっても、所得から言えばより高い負担に応じているという事実は、彼らに対する所得再分配や雇用保障を正当化する強力な根拠になる。逆に言うと、再分配の構造に手を加えず、これまでのような財政再建主義的で、高齢者福祉の財源を埋めるための増税に過ぎないのであれば、消費税を採用しては断じていけない。

 とりあえず、民主党所得税増税を頑張ってほしいし、今すぐにでもやるという点では、むしろ何年先かわからない消費税なんかよりも話題になっていいはずなんだが・・・。


所得税最高税率引き上げ検討…民主・細野氏

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100623-OYT1T01104.htm


 民主党細野豪志幹事長代理は23日、BS朝日の番組収録で「所得税率はもう少し富裕層に負担してもらう可能性も探らないといけない。消費税の前に所得税も議論の対象にすることもあり得る」と述べ、所得税最高税率引き上げを検討する考えを示した。

 政府税制調査会の専門家委員会は22日にまとめた中間報告で、社会保障の財源として消費税率を引き上げるとともに、高所得者に対する所得税などを増税する必要性を指摘した。所得が増えるほど税率が高くなる累進構造が弱まっているとして、累進構造を回復させる改革が必要と強調している。

(2010年6月23日23時48分 読売新聞)