今の増税論議は最低最悪

 最近の菅直人財政再建主義的な主張に堕落してしまっている。「堕落」というのは、素人の納得感を最も得やすい物言いに菅が安易に乗っかりはじめているということである。

 現在福祉は、民間企業、家族、個人の負担に委ねられている部分が多く、それが給付と負担の両面で著しい偏りを招いているという現実がある。社会保障のような生存権に関わるものについては、基本部分は政府が引き受けてこうした偏りを解消し、日本社会で生きている限り均等な福祉サービスを受けられるようにする。税とはこうした負担の偏りを是正する再分配の手段であって、増税はイコール負担増を意味しない。

 だから、福祉を企業・家族・個人で負担するか、税を通じて政府が負担するかという対立軸であるはずなのに、消費税を上げるべきかどうかという、専門家に任せろとしか言いようのない問題が選挙の争点になっている。しかも「財政再建」という、G20でも日本は「例外」扱いにしてもらっているはずの(しかし大手マスコミは日本だけ極端にひどいかのようなデマをふりまいている)擬似問題が、増税を正当化する根拠になっている。結果として、「その前に官僚や議員が血を流せ」という、さらに国民の間の負担の偏りを悪化しかねないナンセンスな主張が出てくる。

 自分のように「大きな政府」で市場経済への信頼と活力を回復するべきという立場からすると、今の増税論議は最低最悪としか言いようがない。これは菅直人民主党が悪いというよりも、「財政危機」と言われると途端に思考停止してしまう日本社会の世論が背景にあり、それを政治家が自説の正当化に利用しているためである。これに有効に抵抗できるのが、国民的に不人気な亀井静香だけというのが*1、頭の痛いところである。

*1:政治手法に色々と問題はあるが、やはり党首討論などで最も常識的で納得できることを言っているのはこの人である。渡辺喜美は時々鋭いことも言っているのだが、やはりあの官僚陰謀論は生理的に受け付けられない。