「大きな政府」なんてできるわけない?

なんか、日本で北欧型の「大きな政府」なんてできるわけない、みたいな批判が相変わらずある。しかし、やたらにフィンランドスウェーデンを賞賛する人(あるいは無意味に批判したがる人)もいないわけではないけど*1、まあ現実的に思考している福祉の専門家で、今すぐフィンランドスウェーデンみたいに、などと言っている人は皆無だと思う*2

 少なくとも自分の立場では、いま日本の抱えている問題を解決するためには、当面は北欧型を目指すのがベターということであって*3、北欧型の政策を10年採用したとしても、最終的に社会保障の水準はフランスやドイツにも遠く届かないだろうし、個人的には別にそれで全然いいという考え方である。北欧型を目指す中で、最終的に日本の身の丈にあった「福祉国家」になればいいだけだし、またそうならざるを得ないだろう。とにかく、日本で北欧型の「大きな政府」なんてできるわけないというのは、ある意味で自明というか、そういう批判で結局何を言いたいのかが、よくわからないという感じである。


(追記7/21)

 自分が当面日本が北欧型を目指すべき最大の理由の一つは、社会保障制度の持続可能性の基本に、若年層・現役世代の教育と雇用保障の充実に求めている点にある。年金の世代間格差への問題意識から積立方式を支持する人が一部にいるが*4、そんな細かなテクニックに走る前に、現役世代が年金を安定的に支払えるように、教育の機会均等と雇用環境の充実を図るべきである。

 北欧型福祉国家にはワークフェア的な側面があり、それを嫌っている人が「ベーシックインカム」を支持している傾向もあるようだ。しかし、それ自体は理解できる一方、個人的には資本主義社会である限りワークフェアは避けられないという考えで*5ワークフェアを超えようとするよりも、その暴力的側面を最小化することに頭を使ったほうが生産的だという立場である。

*1:10年以上前はこういう人たちが反吐が出るほど嫌いだった。もちろん「福祉国家」なるものにも良いイメージがなかった。

*2:少なくともエスピン−アンデルセンをちゃんと読んでいる人だったら、そんな幻想を抱くはずがない。

*3:単に好き嫌いのレベルだけで言えば、北欧型の社会は正直それほど好みではない。

*4:積立方式を支持している人は、社会保障の専門家では異端中の異端で、世界的にもほとんど(少なくとも主要国では)採用されていない。経済学系の人の間では積立方式に妙に人気があるが、経済学については常に「世界標準」を求めるのに、どうして社会保障については異端を平然と採用できてしまうのかがよくわからない。

*5:共産主義も、理念的にはワークフェアを打倒する運動だったはずだが、結果的に労働をイデオロギー的に神聖化してしまったという逆説がある。