ますますわからなくなってくる

 「腐敗認識指数」は、以前も存在は知っていたが、どうも怪しい感じで、あまり興味をもてなかった。しかし、あらためて眺めてみると、データが必ずしも客観的とはいえないことを踏まえれば、なかなか面白いような気がしてきた。

 特に目に付くのは、人口規模と順位が緩やかに相関していることである。考えてみれば当然で、人口が多ければそれだけ公的な機関以外のインフォーマルな権力に依存する必要性が高まるわけである。政治体制は民主的とは言えないシンガポールの順位が3位と高いのは象徴的である。軒並みランクの高いEU諸国のなかでも、人口規模の大きいドイツ、イギリス、フランスは比較的低い位置にある。その意味で日本は、世界で10位の人口規模で17位であり、特に日本より上位の国に、日本よりも人口の多い国がないことは特筆すべきである。もしこのデータを信用することにすると、日本の行政はかなり健全であると理解すべきということになる。

 そして、「腐敗認識指数」の低い国は、必ずしも行政サービスがいいわけではない。3位のスウェーン在住の人のブログより。

 こちらで最も閉口させられるのは公務員関係の仕事の遅さといい加減さ。住民登録、福祉局登録、IDカード登録などの業務は、はずれの担当官(不親切な人)を引くと、いつまでたっても許可されない、あるいは遂に登録されない,なんてことが起こりうる。メールで問い合わせても返事が来ないのはあたりまえ。電話で問い合わせても、5分や10分待たされるのは当たり前。やっと出たと思ったら、ワークシェアが著しいので,別部署に回されて,また待たされる、なんてことはしょっちゅう。これでは英語すらほとんどできなければ暮らしていくのはホープレスである。
http://plaza.rakuten.co.jp/gaksuzuki34/diary/?act=reswrite&res_wid=200801100241024726&d_date=2007-12-30&d_seq=1&theme_id=42014

 さらに2位のデンマーク在住の人のブログより。

さっそくその担当者にメールを出したところ、

「その件に関しては複雑なので、メールでは説明できません。
電話で問い合わせてください」

という返事がきた。

電話の受付時間は通常の勤務時間にあたるので、後日 N 氏は仕事を
半日休み、役所に電話をした。その担当者はきちんと質問に答えて
くれたようなのだが、関連する別の質問に関しては

「それは私の担当ではない。こっちに問い合わせてください」

と、別の部署の電話番号を告げられた。

すぐにそちらに電話してみると、その担当者いわく

「えーと、その件については電話では答えられません。メールで回答
したいと思いますので、詳細をメールしてもらえますか」

・・・役所に出向けばメールしろと言われ、メールすれば電話しろと
言われ、電話すればメールしろと言われる。

ああ、お役所って・・・・・・・・・と、またしても思った出来事でした。

http://moguden.blog81.fc2.com/blog-entry-355.html

 日本でも「お役所仕事」は不愉快にさせられるが、これらは「日本では有り得ない」レベルの話で、行政サービスの水準と行政の腐敗度は別次元のものとして理解すべきなのだろう。むしろ行政職員が個々の住民に懇切丁寧に対応しようとすれば、インフォーマルな権力が拡大し、腐敗の温床になる可能性もあると考えたほうがよい。

 「お役所仕事」に関する海外在住の人のブログを見ると、明らかに「日本よりもひどい」ものが大半で、こんな行政によく高い税金を預けているなという気になってくる。逆に、日本の行政に対する不信とは一体なんなのかが、ますますわからなくなってくる。

(追記)

 世界各国における組織・制度への信頼度 ― 社会実情データ図録
 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5215.html

 2000年と少し古い調査だが、これを見る限り日本の行政の信頼度は「世界最低」である。「腐敗認識指数」ではるか下を行っている韓国が6割なのに対して、日本では3割を切っている。さらに大企業への信頼度も低く、日本人は一体何を信頼をして生きているのか、という気になってくる。これは政府も市場も信頼していないという、大竹文雄氏の指摘と重なる。

 それにしてもびっくりしたのが、逆に「新聞・雑誌」への信頼度が「世界最高」であること。これは、インターネットが普及した2005年になってもあまり変わっていない*1。ますますわからなくなるが、日本の行政がそんなに腐敗していて、マスメディアがそんなにクリーンなのだろうか。個人的には後者のほうが、官僚組織以上に官僚化しているように思うのだが。マスコミによる官僚・公務員バッシングの影響力が大きいのも納得であるが、どういうメカニズムでそうなってしまっているのか、ますます不思議である*2

*1:「組織・制度への信頼度の推移」http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5215.html

*2:ちなみにこの問題にこだわるのは、行政に対する不信と、政府の分配に頼らないと生きていけない人への自己責任言説が強いことは、一体化していると考えているからである。自分が目下「大きな政府」路線を支持しているのは、市場よりも政府を信頼しているからでは決してなく、今の日本では福祉や貧困救済といった元来市場が不得意な領域を民間に委ねていることで、結果的に市場への信頼を損ねていると思うからである。経済成長して税収を増やせば政府の役割は小さくてもいいという人もいるが、個人的にはきわめてナンセンスだと思っている。