菅VS与謝野

 また追記のようなものとして、菅首相と与謝野大臣は、ほんの10ヶ月前に国会でこんなやり取りをしていたので、ここで掲げておきたい。

衆議院 - 財務金融委員会 平成22年03月02日


○与謝野委員 ・・・・・そこで、菅大臣は、名目成長率だけ三%にする、インフレターゲット一%を導入したらいいというようなことをおっしゃっているんですが、正確には何をおっしゃりたかったのかということをお伺いしたいと思うんです。


○菅国務大臣 今触れられたのは、昨年の十二月三十日に発表しました新成長戦略の基本方針の中で、二〇二〇年までの平均の目標として、名目成長率を三%、実質成長率を二%、それによって二〇二〇年にはGDPが名目で六百五十兆円、これを目標にしていこうと。それを実現するための具体的ないろいろな、大きい項目とかはもう既に出しましたけれども、具体的な中身を今、すべての省庁の政務三役を中心に議論をさせていて、そういう形でまず、与謝野さんの本にもありましたし、ほかの方からも言われますが、パイを大きくするということも一方でやりながら、そして一方では、歳出の削減等については、率直に申し上げて、先ほどの議論もありましたけれども、まだ出口戦略は、今の世界の経済情勢、日本の経済情勢からすると少し早いかな。ですから、二〇一一年の予算規模についても、今から余りこう小さくするという形のメッセージは必ずしも望ましくないのかな。
 そういう中で、税収の問題も大変落ちております。これは所得税についても、この間のまさに小泉・竹中路線では、所得税最高税率をどんどん下げてフラット化して、それが日本経済を立て直すんだと言っていたけれども、少なくとも私が見る限りは、それは格差の拡大にはなったけれども経済の拡大には必ずしもつながっていない。
 そういうことで、まず所得税の方から、今専門家委員会がスタートしましたので、三月に入りましてからまずそこから議論して、法人税あるいは消費税あるいは環境税、そういった形で、当然ながら、そういった意味での景気あるいはパイを大きくすることと同時に、税のあり方についても議論を本格的に始めるのがまさにこの三月からだと思っております。


○与謝野委員 菅大臣がデフレ宣言をされたんですけれども、そうだとしたら、どういう政策対応をするかということも考えていないと、ただの機械的な判断としてのデフレ宣言になってしまう。
 日本の物価下落は、菅大臣は貨幣現象を主因ととらえておられるのか、実物現象、すなわち中国との競争、国内のオーバーキャパシティー、過当競争、これが原因なのか、貨幣現象なのか実物現象なのか、これを菅大臣はどういうふうに考えておられますか。


○菅国務大臣 私も、こういう立場に立ってから、いろいろな専門家、いろいろな経済学者、あるいは多少の本も読ませていただいておりますが、もともと私は経済を勉強した人間ではありませんので、そうした中でいろいろな議論は、そうは言っておられませんのでやっております。
 私の感覚では、デフレというのは貨幣のバブルだ。つまりは、物を買うよりも貨幣で持っていた方がいいと多くの人が思う。場合によったら、貨幣だけではなくて、あるときには株で持ち、あるときでは土地で持つ。つまりは、何か、食べ物とかいい家とかいい車とかというものよりも、貨幣そのもので持っておく志向が強くなっている。その現象、それがデフレという形につながっている。
 もちろん、実物経済の中で物が売れなくなっている、これは過当競争というだけではありません。つまりは、需要があるところに供給がないことがあるんです。それがさっき言った介護の問題であり医療の問題です。ですから、私は、これまでの経済政策は間違っていたというのはそういう意味です。
 つまり、ユニクロは確かに競争に勝ちました。しかし、ユニクロが売るものは、従来三越が売っていたとしたら、三越が売れなくなっているんです。マクロ的に見れば、ユニクロは売り上げが伸びるけれども三越は下がるんです。しかし、介護とか医療とかであれば、潜在需要があるんですから、そこに供給が出れば需要が生まれる。あるいは、アイパッドとかあるいは新しい環境の製品は新しい需要を生み出すんです。
 ですから、そういった意味で、新しい需要を生み出さない限りは、単に競争に勝つ製品が出たからといって、マクロ的に見たら、その会社はもうかるかもしれないけれども、マクロ的に需要そのものが大きくなっているかといえば、大きくなっていない
 今回の三十兆円を超えるいわゆるデフレギャップも、もう御承知でしょうけれども、つまりは小泉、竹中さんの時代に欧米が、特にアジアが大変成長をして、そこに多くのものを輸出ができたからなんです。多くのものを輸出ができたんです。(発言する者あり)何もユニクロが悪いなんて言っていないじゃないですか、後藤田さん。
 私が言っているのは、かわるものをつくっただけではだめなんだと。同じように、もっと安いテレビをつくっただけで、ではテレビの台数が一千万台ふえるかといったら、そうならないでしょう。しかし、アイパッドとか新しい介護であれば、出すだけあるいは売れる場合もあるわけです。それが、私の言っている第三の道なんです。
 ですから、雇用から需要、需要を生み出す、そういう分野、その需要というのは、ある意味では潜在需要の存在する分野を中心にして、そこに、必要であれば何らかの形で財を投じることで景気を回復させ、成長戦略に戻していきたいというのが私の基本的な考え方です。


○与謝野委員 何か、基本的な認識が間違っているんじゃないかという気がするんです。
 一つは、外需依存というようなことをおっしゃいましたけれども、日本の外需依存度というのはたった一五%ですよ。八五%は国内の経済なんです。それが一つ。
 それからもう一つは、新しい需要を開拓すべきだ、それは私も同じ意見です。しかし、新しい需要を開拓するためには、保険料あるいは税で積極的にお金を集めて、それを散じていくということがないと、需要は実は生まれない。そういう問題がありますから、財政構造自体もそれに合わせて変えていく必要があるのではないかと私は思っています。
 ですから、あの成長戦略は、申しわけないけれども、二〇二〇年まで三%成長、実質が二%で、一%がインフレ率だと。これは、やはり菅大臣は、自民党に来て、上げ潮派の人たちと仲よくした方がいいという感じがしましたよ。我々は、そういういいかげんなことじゃだめだと。やはり、日本の潜在成長力というのはそんなに高くないんだと。
 それから、インフレということを政策目標にするというのは、やはり政治としては絶対避けなきゃいけない、そういうことを言ったんですけれども、天下の民主党財務大臣がインフレ一%容認論なんですから、これはおかしいというか、政治がやはりやってはいけないことなんですよ。インフレなき経済成長というものを目指すということにしなきゃいけないんですよ。


  金融政策論者は最後の段落に激怒して与謝野氏を全否定しているわけだが、この段階では菅首相は与謝野氏とは明らかに対立した認識を持っており、検索してみると「このデフレを脱却するには金融政策というものも極めて重要なので、どうしてもそういうものを組み合わせて、ある程度ダイナミックな形で案を練らないと」とか(衆議院財務金融委員会平成22年02月19日)、金融政策にも比較的好意的な発言がこの時期目立っていたが、金融政策論者がこの時期の菅直人を評価したというのは記憶にない。つくづく、どこで何を間違えたのかという気がしてくる。おそらくは、菅首相が消費税の話を出しはじめたときに、金融政策論系の人から全否定されたことからだとは思うのだけど。