消費税を政治の争点にすべきではない

国債格下げ「消費増税の催促」=与謝野経財相
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2011012800004


 与謝野馨経済財政担当相は27日夜、BSフジの報道番組に出演、米国の格付け会社が日本国債長期格付けを引き下げたことについて、「(消費増税を)早くやれという催促だ」と語った。同相は「日本の消費税はたった5%。スウェーデン25%、ドイツも20%。(日本には)まだ消費税という使ってない武器があると(世界の人は)今まで思っていた」と指摘、財政再建に向け消費税率引き上げが必要との考えを示した。(2011/01/28-00:06)


 消費税に反対か賛成かと問われると、昔は普通に「賛成(あるいは反対派の批判に説得力がない)」と答えていたのだけど、最近は「それを政治の争点にしてはいけない」「その財源で何をしたいかによる」と曖昧に答えるようにしている。

 というのは、消費税が政策上の争点になっていることが、日本の政治の混迷の源の一つであるような気がするからである。消費税増税に賛成している人には、社会保障給付を減らしてでも歳出削減をしないと「ギリシアのように財政破綻」すると危機感を煽る人もいれば、むしろ積極的に歳出を増やして北欧のような分厚いセーフティネットを張るべきだという人の両方がいて、その根本理念において双方は同床異夢どころか、呉越同舟、不倶戴天の敵とさえ言える。一方で消費税に反対している人も、まず政府資産の売却、官僚・公務員の人件費や議員定数の削減で「自ら血を流せ」という「小さな政府」論者もいれば、庶民に課税する前に大企業や富裕層が負担をしろという共産・社民のような立場もあるし、そのいずれでもなく、デフレ不況下の増税は経済にマイナスでしかない、という純経済学的な理由で反対する人もいる*1

 消費税が、うまく政策理念が争点化されるテーマであるのならいいのだが、以上のように現状では全くそうではなく、その結果として今回の菅内閣のように、社会保障を重視しつつ緊縮財政という、個人的には色々な矛盾が噴き出しそうな危険性を心配せざるを得ない路線になってしまっている。今の与謝野馨は、少なくとも社会保障については極めてまともなことを言っていると思うが、彼に好意的な周囲のエコノミストなどは、冒頭に掲げた記事のような、もっぱら「財政再建」の文脈でしか評価していない。経済学系の人にも「構造改革」に批判的な「大きな政府」志向の人もいるが、菅政権で消費税が問題になって以降は、一斉に「小さな政府」「構造改革」系の人たちと共同歩調をとるようになっている。

 本当なら、政治勢力が大きな政治理念や階層的利害を基準にして分かれ、消費税のような問題はその内部で専門家が議論をすべき話なのだが、日本の政治では消費税が争点として前景化していることによって、同床異夢連合があちこちで生じ、まともな有権者ほど「どこに投票していいのかわからない」ような状態になっている。少なくとも政治家やメディアで発言力のある人には、これ以上消費税を争点化しないような努力を求めたいのだが、もう手遅れなのだろうか。

*1:個人的にはこの批判はあまり納得できないものであり、あくまで「増税」ではなく「緊縮財政」と言い換えるべきだと思う。