今すぐできることはいくらでもあるはず

 自分は税制については素人だが、消費税増税に反対しないのは、少なくとも専門家の意見を拝聴する限り、説得力が高いとやはり考えざるを得ないためである。

1)徴収の効率性が高い。結局のところはこれに尽きるかもしれない。


2)所得税などと比べて税収が安定している。社会保障は一時的な福祉給付金ではなく、短期的な景気の動向とは別に10年後、30年後までの財源を考慮すべき問題。


3)全国民が均等に負担するということは、高所得者に対する低所得者への再分配の正当性が確保しやすいこともである。所得税は「納税者の反乱」のリスクが高い。逆進性は負担よりも分配の側で補填すべき。


4)福祉サービス受給の中心である年金生活の高齢者にも薄く広く負担できる。病院の窓口負担を財源不足のたびに上げて不信感を蓄積するよりもいい。


5)今のところ、消費税増税が主要因で景気が急激に悪化したとか、あるいは自殺者や餓死者が激増したとかという実証的な議論を聞いたことがない*1

 これに対して反対派は、「社会保障なんて口だけで所詮は詐欺商法」などという陰謀論を繰り出すばかりで、正直言って幻滅している*2。消費税問題に過剰反応して闇雲にバッシングしたことが、財政再建派と社会保障派の呉越同舟を生み出した可能性を少し反省してみたらどうかと言いたくなる。

 いずれにしても、医療、介護、雇用、教育、研究などなど、政府・行政にしかできない問題を多く抱えている現場で、「財源がない」の一言で、現場の人が真綿で首を締められるように苦しんでいる現実が膨大にある。とにかく、これを何とかして欲しいという気持ちが強い。「デフレ脱却・景気回復こそが最善の財政再建政策」というのは正論かもしれないが、それ以前に今すぐできることはいくらでもあるはずだと思う。

 ちなみに「脱成長」論については、自分もやや批判的だが、しかしたとえ数年間マイナス成長に陥っても自殺者や餓死者を出さないような社会のあり方を構想することと、経済成長が重要であるということとは、全く矛盾するものではない。ネット上では「脱成長」論がやたらに叩かれる傾向があり*3、確かに「勝ち逃げ世代の奇麗事」にしか聞こえないというのは分かる気もするが、何らかの奇麗事というものを抜きして再分配や社会保障が可能なのかという疑問も正直ある。

(追記)

 だから、消費税を増税をしたことで、以降長期にわたって深刻な不況が到来したという実証的・経験的な議論を聞いたことがないので(賛成派の専門家たちがそんな基本的なことを全く考慮していないとは思えない)、まあ分配面で対応すれば、普通に考えてそこまでひどくはならないだろう、くらいに考えている。それに税を通じた再分配の話は、景気対策やそういう話とは微妙に別の問題なので、あくまで景気の問題は景気の問題として議論してもらったほうがいいと思う。

(追記2)

 だいたい財務省がどうどうのこうのっていう議論がすごく不思議なのは、そこまで力があったら、とっくに消費税は15%以上になってなければおかしいだろうということ。財務省の陰謀を言揚げする「脱藩官僚」なる人たちも、要するに「官僚主導」の時代が終わり、政治家に顎で使われることに耐えられないエリート意識の高い人たちが、単に見切りをつけただけなんじゃないかと、下衆の勘繰りをしたくなる。

(追記3)

 だから、緊縮財政路線か需要創出路線かという対立軸で物を語るべきなのに、何で「需要」を考えているはずの人たちが、話をとにかく消費税というサブテーマに持っていこうとするのか。「みんなの党」にしても、金融政策以外では緊縮財政的な「バラマキ」批判の傾向が強いし、テレビ向けに語っているものは特にそうである。それを方便ととっている人もいるようだが、結局世論が支持している「バラマキ」「税金の無駄遣い」批判的な政策を最優先に取り組むようになるのは、容易に想像できることだろう。それにしても今に始まったことじゃないが、ネット上の経済論壇に蔓延る知的スノビズムはどうにかならないものか。

(追記4)

 追記がやたらに多いのは反対派の議論に無性に腹が立っているからだが、「消費税が社会保障財源になるなんて能天気な馬鹿がいるのか」なんて批判が通用するなら、それが「金融政策で貧困者が減るなんて能天気な馬鹿がいるのか」とブーメランのように返ってくるだけだろう。菅政権を「詐欺商法」と批判できるなら、みんなの党だっていくらでも「詐欺商法」と批判できる。なんでこう、議論をどんどん非生産的な方向に誘導するんだろうか。

*1:反対派の実証的議論http://synodos.livedoor.biz/archives/1667611.htmlも、言えているのはせいぜい「可能性は否定できない」くらいのところまでだと思う。97年の増税は、公共事業の大幅カットを含めた当時の緊縮財政路線自体を問題にすべきなのに、どうして消費税ばかり批判されるのかがよくわからない。

*2:「無駄を削れば20兆円くらいすぐ出てくる」など、民主党政権にはもっと露骨な「詐欺商法」がいくらではある。

*3:http://b.hatena.ne.jp/entry/diamond.jp/articles/-/11057