何でも構わない

>id:dongfang99 争点化はどっちもどっちだと思います。緊縮財政については、そのことで効率性up→成長というパスが期待されたからだと思います。「増税で経済成長」は受容されないという事かと。


http://b.hatena.ne.jp/econ_econome/20110620#bookmark-47623574

 要は自分は、貧困・過労・失業などの問題の解決に真剣に取り組んでくれる人であれば、手段が税だろうと金融だろうと何でも構わないのである。自分が増税にやや好意的なスタンスにあるとしたら、これらの問題に直接取り組む社会保障論者の多くがそういうスタンスであり、その説明の論理を説得力があるものとして共有しているから、という以上のものではない。自分は完全に「復興」の段階に入るまでは、税と社会保障の話は混乱を避けて先送りすべきだと考えるが*1、そこまで激怒すべき話かと言われると、やはり疑問である。

 今のデフレ不況・震災下で緊縮財政・規制緩和を言っている人たちは、増税派であれ反増税派であれ、その中に経済学的正論が含まれているかもしれないとしても、以上の問題に冷淡であると言わざるを得ないし、実際そういう無神経な発言を過去にしてきた人の顔が何人かいる。もともと「貧困の経済学」を考えていた人たちが、「反増税」という手段のみで、こういう人たちと躊躇なく手が組めるというのが正直理解できない。

 「増税で経済成長」は、その字面だけをとれば「トンデモ経済学」であろうが、菅首相はもちろん、小野善康氏ですらそんな乱暴なことは言っていないだろう。正確には「増税よる財政出動・雇用創出による経済成長」である。もともと「財政出動・雇用創出」に力点のあった話なのに、批判者は「増税」ばかりを攻撃するものだから、小野氏自身も苛立って「増税」を前面に掲げるようになってしまった。小野氏の経済政策論には個人的にはあまり賛成しないが、緊縮財政派には「真意」を丁寧に理解してあげる一方で、菅政権には「増税で経済成長」というミスリードな要約を行って批判するのは、フェアな態度とは言えない。

 最後に、反増税派はより現実性・持続性のある財源論を提出することが、最低限の義務であるはずである。少なくとも、増税批判に興じてばかりいるのではなく、「財源がない」という圧力の下で暴力的に沈黙させられてきた、医療・介護・教育・労働の現場の人たちに、どのように財源が行き渡るのかを具体的に示してほしいと思う。

(追記)

 消費税増税は「税収を上げる」ためではなく、恒久財源である社会保障の安定財源を確保するため、そして国民と政府との間に負担と分配の関係を構築するためである。

 税収を上げるには、やはり「経済成長」が必要であることは言うまでもないが、少なくとも税収が上がらないから消費税増税が反対だ、というのは実証的にも大いに疑問だが(98年の税収減は法人・所得減税プラス金融危機というすごく単純な説明でなんで納得しないのか?)、そもそも論理としても根本的に間違っている。

 いま日本では根本的に教育・社会保障のための恒久財源が不足しているのは明らかだから、なるべく避けてはほしいが、分配が今より増えなくても増税すべきという理屈は、それ自体は間違っていない。本来は景気のいい時代にとっくにやっておくべきだったことを、デフレ不況プラス震災の現在において取り組まなければならないのは、本当に不幸としか言いようがない。

 「復興税」の話と混乱を招きやすい現段階では*2、「税と社会保障」の話は当面先送りすべきであると思うが、増税批判ばかりにエネルギーを注ぎ、「増税は景気を悪化させる」という論理が、結果的に「財源がない」で圧殺され、予算の節約が自己目的化している現場を見殺しにしている現実に無頓着な人には、心底憤りをおぼえる。

 「今そのタイミングではない」ではないというのは、専門家ではないのでそう断言できる根拠はよくわからないが、一応理解できないわけではない。しかし、そう批判している話を聞いていると、未来永劫そのタイミングはやってこない気がする。実際、バブル真っ盛りで超インフレだった時代の、89年の消費税増税ですら間違っていたと言っている人も見受けられる。もしこの評価に賛成している人がいるとしたら、いかなる増税も経済にマイナスだから原理的に反対であり、教育や社会保障は可能な限り市場やボランティアにゆだねるべき、と最初から正直に言った方がよいと思う。

(追記2)

 とにかく、震災復興でも社会保障でも、税の話が少しでも出てきたら、それを「増税」と一刀両断して政権自体を全否定する人が多すぎる。

 財務省や財政系の人たちの増税論が不愉快なのは自分も同じだが、それが彼らの「仕事」でもあるから、仕方がない面もなくはない。不思議なのは、他の人たちまでそうした財政脳な人たちの問題意識にクソ真面目に付き合って、いろんな目的や争点のある政策論を、とにかく「増税」に単純化してしまうことである。結果として、小野善康氏に象徴されるように、増税が必ずしも主題ではなかった人たちまで、熱心な「増税主義者」に仕立てあげてしまう*3。ご苦労なこととしか言いようがない。

 増税を主張している政治家の多くも、増税以外の財源調達手段があれば別にこだわらないと考えている可能性が極めて高いのに、現実的な代替財源をいつまでも経っても示さないまま*4、「財務省に洗脳されて増税一直線」のような物言いで全否定してしまう。一部の有名な経済学者は「またか」という感じだが、これに同調している人が案外多いようで少し驚いている。

 財源の話で、税が選択肢の一つになることは別に普通のことだと思うのだが、批判する側は選択肢の一つに上がったという報道を目にしただけで、なぜかその瞬間に頭が爆発し、現政権がひたすら増税を目指して邁進しているかのような解釈を下している。自分も税の話はなるべく禁欲したいのだが、こんな中二病的な政治理解や問題意識で税制が語られ、少なくない人が同調しているのは、さすがに我慢の限界という感じである。

 ちなみに、自分は緊急の復興財源はできるだけ公債で、恒久的な社会保障財源は増税(プラス保険料の累進強化)が筋だが復興が軌道に乗るまで当面先送りすべき、という立場である。おそらく他の多くの人たちも、増税については一義的な立場をとっているわけではないはずである。すべての政策論的立場を「増税反増税」に分断して満足できる人たちは、もっと頭を冷やせと言いたくなる。

(追記3)

@lakehill

dongfang99さんもhamachan先生も増税して社会保障を増やすべきと言っているけど、別に俺もいづれ増税するべきたと思っているよ。ただ今やることじゃないだろう?あと、お上を信用しすぎだろう、増税だけされて社会保障は増やさずという可能性もけっこうあると思うぞ

http://twitter.com/#!/lakehill/status/83848256735559680

 社会保障が増えない増税はなるべく避けてほしいが、正直に言うと、それでも増税しないよりはましという気持ちがある。

 というのは、全く増税をしないと、福祉の現場で「財源がない」でより我慢を強いられる環境が、さらに悪化していくことが確実だからである。福祉の分野は別に市場原理で動いているわけではない(また動かすべきではない)から、経済成長が現場の負担を緩和させるわけでは必ずしもない(逆に負担が増えることもある)。増税でこういう現場に手当てをすることと、金融緩和などで経済成長を後押しすることは、全く矛盾しない話だと思うのに(むしろ前者の負担を緩和するためにも後者が重要になるはず)、与謝野大臣もそれを批判する側も、全面的に両立不能であるかのように議論を持っていこうとするのは、一体全体どうしてなんだろうか。

 それに消費税増税が景気にマイナスだというのを認めるとして、その批判のレトリックばかりに頭をつかって、その代替財源に全く頭を使ってくれないのは、果たしてどういう問題意識に基づいているのだろうか。現状を見ていると、(消費税)増税容認派のほうが、まだ現実の問題に真摯に向き合っていると評価せざるを得ないと思う。

 あと「お上」が信用できるとかできないとか、そういう話に持っていこうとする人は、一体何なのだろうか*5。税を財源にした政策論自体を、「お上を信用しすぎ」などと言うのは、もう開いた口がふさがらない。「大企業」「資本家」のやることに、何かと「搾取」の臭いをかぎつけて因縁をつけたがる(さすがに今は少なくなった)左翼もそうだが、政府や市場がある程度健全に機能している、またいざという場合は国民の手で修正可能であるという状態を前提にしなければ、社会政策も金融政策も何一つ語れなくなるわけなのだが・・・。これは革命でもするしかないとでも言っているに等しい。

 それに繰り返すが、個人的には「税と社会保障」の話は、無理にいまやることじゃないという考えである。震災のドサクサでやろうしている人もいるようだが、これはとんでもないことだと思う。自分を「増税派」呼ばわりしても構わないが、申し訳がないがその期待には応えられそうにない。

(追記4)

 だから、政府が担うべき分野の恒久財源が不足している現場が明らかに悲惨なことになっていて、その財源の問題を真剣に考えてほしいと言っているのに、どうして頭のいい人たちが揃いも揃って増税批判ばかりに頭を使うのだろうか。

 「景気が回復するまで国債発行を増発する」とか、「所得税の累進率を強化する」という話を説得的にしてくれれば、自分もそれに乗っかることができるのだが(埋蔵金とかはさすがに論外だと思う)、反増税論者でそれを前面に掲げて議論している人は皆無だし、目下反増税の急先鋒である「みんなの党」は、国債所得税のどちらについても明らかに否定的だろう(人によってはそうでなくても支持者のクラスタを考えれば最優先に取り組んではくれないだろう)。

 インフレも資産家課税みたいなものという人がいるが、ちゃんと税であればそれで教育や社会保障の分野に対してきちんと予算を組めるが、インフレはあくまでお金をためておきたい人からどんどん使いたい人に回るというだけで(つまり既に金持ちになった人からこれから金持になりたい人に回る)、そのことが景気を底上げするという論理には説得力があるが、それは社会保障財源などの話とはまた別の問題である。

 というより、まだ膨大な瓦礫も撤去できておらず、いまだ11万人が避難所で暮らしている段階では、インフレの話も税と社会保障の話も、もう少し我慢すべきだと思う。自分も人のことは言えないが。

 それ以前に、反増税論者たちの「空気」が正直よくわからない。いったい社会の現実の何に対して怒っているのか・・・。

(追記5)

 非常にタイムリーな本が出ていたので紹介。 

 ざっとななめ読みした限りでは、反対するところは全くなかった。近年の「ムダの削減」論は経済にとってマイナスでしかなく、増税は必要だがデフレ不況を克服するまでは当面国債発行で、脱デフレについてはリフレーション政策で(「リフレ」とは言ってなかったが)という、個人的には非常に穏当で真っ当すぎる内容である。財政・社会保障・経済それぞれにちゃんと目配りがきいている。専門は理論社会学の人で、基本的に素人勉強なので細かい分析の評価は専門家のコメントを待ちたいが、社会学の(本来は)持っているバランス感覚が非常によい具合ででている。もう一回ちゃんと読んでみたい。

 以下のアマゾンのレビューには完全に同意である。

 経済畑の「これをすれば上手くいく」系の本は、社会福祉だとか市民の生活を軽視していたり、一つの理論に傾倒し過ぎてる事が多々ある。反対に福祉政策系の本は、経済・財政にあまり深く突っ込んだりしない。それぞれの分野のスペシャリストが、各々の主張を展開しているだけで、それらを統合する様な動きは総じて少なかった。
(中略)
巻末の100を超える参考文献の3割は新書。それが逆に、巷にあふれる情報を整理するのに役立つ結果となっている。私の様に趣味の一貫として、適当にこれ系の本を読む身としては、非常に助かる。

 というか、こういう建設的なことをちゃんと言ってほしいのに、「増税派/反増税派」の政局にして盛り上がりたいだけの人が多すぎると思う。

*1:とくに財政規律の論理が強くなっている傾向があることは警戒すべきだと考える。

*2:というか増税派も反増税派も意図的に混乱させている印象がある。

*3:これについては小野氏は確かに弁護の余地もない。

*4:あるいは考えてはいるとしても、それで文章を一本書くほど熱心ではないことは間違いない。

*5:信用できないとわめいている人たちのほうが、官僚組織に対して妙な幻想がある。自分は、他の先進国と同程度には「腐敗」しているというくらいの理解。